VCの半分は不要?世界的投資家が語る「中国がAI戦争に勝つ」衝撃の理由と日本企業が生き残るための規律
- Global Tech Partners

- 5 days ago
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シリコンバレーの熱狂の裏で、実は「ベンチャーキャピタルの50パーセント以上は価値がない」と断言する投資家がいることをご存知でしょうか。
TikTokを運営するバイトダンスを初期から支えた世界的投資家が見据える、AI時代の「本当の勝者」と日本企業が学ぶべき経営の鉄則を解き明かします。
この記事は2026年3月7日にアップされた「20VC with Harry Stebbings」の「Mitchell Green: Why 50% of VCs Should Not Exist & Why China will Win the AI War」というYouTube動画を元に日本の読者に向けて役に立つ情報と考察を書いています。
投資業界の不都合な真実:なぜ「観光客」のような投資家が増えたのか
まず、現在の投資の世界には大きな問題があるとミッチェル・グリーン氏は指摘します。彼は、ベンチャーキャピタル(VC:成長が期待される未上場企業に投資する会社)に関わる人々の50パーセントから70パーセントは、実際には企業に対してマイナスの価値しか提供していない「観光客」のような存在だと言い切ります。
かつて投資は、泥臭く企業をリサーチし、経営者を支える専門的な仕事でした。しかし、市場にお金が溢れすぎた結果、ただ流行に乗って投資をするだけの人が増えてしまいました。例えば、有名なAI企業からスピンアウトしたというだけで、具体的なプロダクト(製品)もない、ナプキンの裏に書いたようなアイデア段階の会社に、20億ドルもの価値がつけられて資金が投じられる。これはもはや狂気と言わざるを得ません。
日本の経営者の皆様にとって重要なのは、自社に投資をする側、あるいはパートナーとなる側が「流行を追っているだけの観光客」なのか、それとも「苦しい時も規律を持って支えてくれるプロ」なのかを見極める目を持つことです。市場が右肩上がりの時は誰でもうまくやっているように見えますが、本当の価値は不況の時にこそ現れるからです。
世界で最も過小評価されているAI企業「バイトダンス」と中国の勝算
次に、ミッチェル氏が語る「AI戦争」の行方についてです。彼は、中国がAIの分野で世界に勝つだろうと予測しています。その筆頭として挙げられるのが、バイトダンス(ByteDance:TikTokなどを運営する中国の巨大IT企業)です。
西側諸国ではまだ十分に理解されていませんが、バイトダンスは世界で最も進んだAI企業の一つです。彼らがどれほどAIを活用し、どれほど巨額の投資をしているか。そのレベルは他の追随を許しません。ミッチェル氏は、中国がAIで有利な理由として「電力」と「人材」を挙げています。
AIを動かすには、膨大な電気が必要です。米国や欧州では、巨大なデータセンターを建設しようとすると、地域の住民からの反対や環境規制、そして深刻な電力不足に直面します。一方で中国は、国家レベルで原子力発電所や巨大な太陽光発電施設を短期間で建設する力を持っています。さらに、科学技術を極めて重視する教育文化があり、AI研究に不可欠な博士号保持者の数も圧倒的です。
日本企業としても、「中国はコピーばかりだ」という古い認識を捨て、彼らがどのようにAIを実社会やビジネスに実装しているのかを直視する必要があります。特に製造業や物流といった分野で、中国のAI実装スピードは脅威となるでしょう。
既存企業はAIに駆逐されるのか?「SaaSの虐殺」という誤解
現在、株式市場では「SaaS(サース:ソフトウェアをネット経由で月額課金などの形で提供するサービス)はAIに取って代わられて終わる」という悲観論が広がっています。これをミッチェル氏は「サスクル(SaaSの虐殺)」と呼びつつも、既存の優良な企業がすべて消えるという考えは間違いだと指摘します。
例えば、ワークデイ(Workday:人事や財務の管理ソフト)のような巨大な企業は、すでに膨大な顧客基盤とデータ、そして潤沢なフリーキャッシュフロー(会社が借金の返済や事業投資などに自由に使える現金のこと)を持っています。彼らのような「インカベント(既存の強者)」は、自らのサービスの中にAIを組み込み、さらに強くなることができます。
ただし、すべての既存企業が生き残るわけではありません。生き残る企業と消える企業の差は、どこにあるのでしょうか。ミッチェル氏は「負債(借金)」の有無が決定的な違いになると言います。
経営者が見落としてはいけない「負債」と「継続率」の真実
1999年から2000年にかけてのITバブル崩壊時、多くの小売企業が倒産しました。セアーズやKマートといった名門企業が消えた一方で、ウォルマートは生き残りました。その最大の違いは、ウォルマートには過度なレバレッジ(借金をすることで、自己資金以上の大きな投資を行うこと)がなかったことです。
借金が多い企業は、金利の支払いに追われ、新しい技術への投資ができなくなります。AIのような大きな技術変革が起きている時、手元に自由な現金がないことは致命傷になります。日本の経営者の皆様も、今の自社の財務状況が「変革への投資」を阻害していないか、今一度確認する必要があります。
また、ミッチェル氏がソフトウェア企業の価値を測る際に最も重視している指標が「グロス・ダラー・リテンション(Gross Dollar Retention:既存の顧客がどれだけ継続して料金を支払ってくれているかを示す指標)」です。
これが90パーセント以上であれば「良い」、95パーセント以上なら「素晴らしい」、98パーセント以上なら「驚異的」です。もしこの数字が70パーセントや80パーセントしかないのであれば、それは穴の空いたバケツに水を注いでいるようなものです。新規顧客の獲得に躍起になる前に、既存の顧客がなぜ離れていくのか、サービスの本質を見直すべきだという教えは、あらゆる業種に通じます。
AI時代の仕事はどうなる?歴史が証明する「再教育」の力
AIによって多くの仕事が奪われるという恐怖についても、ミッチェル氏は冷静な視点を提供しています。歴史を振り返れば、技術革新は常に仕事を奪うと同時に、新しい仕事を生み出してきました。
例えば、1980年代にはアメリカに数百万人の電話交換手がいましたが、技術の進歩でその仕事はなくなりました。しかし、それによって社会全体が混乱したわけではありません。人々は再教育を受け、新しい役割を見つけてきました。
AIは人間の仕事を奪う敵ではなく、一人当たりの生産性を爆発的に高めるツールです。特に人手不足に悩む日本にとって、AIによる生産性向上は「救世主」になるはずです。ただし、それには経営者が社員のトレーニングに責任を持つという覚悟が必要です。
投資と経営の極意:「安く買い、規律を持って売る」
最後に、ミッチェル氏の投資哲学から学べることは、徹底した「規律」です。彼は「買うことは華やかだが、売ることが仕事だ」と言います。どれほど素晴らしい会社でも、高すぎる価格で買えば利益は出ません。逆に、市場が恐怖に包まれて優良企業の株価が下がっている時こそ、勇気を持って買うチャンスです。
また、自社の株価が割安だと思えば、積極的に「自社株買い」を行うべきだとも述べています。これは、自分たちのビジネスの未来を誰よりも信じているという強いメッセージになります。
これからの10年、世界経済は大きな調整局面を迎える可能性があります。しかし、ミッチェル氏のように「不況こそが最高の投資機会である」と捉え、規律ある財務と、AIという強力な武器を携えて挑む準備ができている企業にとっては、これほど面白い時代はありません。
専門用語のまとめ:
VC(ベンチャーキャピタル):新しいビジネスを始める企業にお金を出し、成長を助ける専門の会社。
ByteDance(バイトダンス):世界中で人気のTikTokなどを作っている、AI技術が非常に強い会社。
SaaS(サース):インターネットを通じて使うソフトウェア。月払いの料金形式が多い。
フリーキャッシュフロー:会社が自由に使える現金。これが多いと新しい挑戦がしやすい。
レバレッジ:借金をして、自分のお金以上の大きなビジネスをすること。
Gross Dollar Retention(総売上継続率):前の年からのお客さんが、今年もどれくらいお金を払ってくれているか。サービスの満足度を測る重要な数字。
本稿は以下の記事を参考にしつつ、事業戦略の観点から考察したものです。
本テーマが自社の事業戦略にどう影響するか、
ご関心があれば個別に議論可能です。




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